今回は単品管理思考法のSTEP⑶、「死筋排除(いらないものを削る)」を解説していきます。

繰り返しとなりますが、単品管理思考法は『すれ違い、もったいないを少なくする方法、そして重なり合っている「満足度」を大きくする方法』です。

そしてこの思考法の中でとても大切な点として、「死筋排除」があります。
このSTEP⑶死筋排除のポイントは下記の3つです。

① 能力や資源(お金・場所・モノなど)は有限
② 必要がないモノ・コトは時として有害
③ 死筋の定義は時と場面によって異なる

前回のSTEP⑵仮説構築では、少ない情報からGoalを設定すること、間違えても修正する柔軟性を持つことなどをお伝えしていきました。
仮説を立てて実施、実行に移す前に「本当にそれが実現可能かどうか」を考える必要があります。
ここで重要なのが死筋排除です。では、これをどのように考えて実行に反映させていくかを上の3つのポイントの順に考えていきましょう。

能力や資源(お金・場所・モノなど)は有限

さて、皆さんは同時に話す人の話を何人まで理解することができるでしょうか?
3人?5人?10人?
私は1人、出来て2人が限界です…
聖徳太子は一度に10人の話、願いを聞き分けてそれぞれに的確な回答をしたという言い伝えがあります。
この話の真偽はともかくとして、皆さんは聖徳太子のように10人の話を聞き分けることができるでしょうか。
人間には能力があり、大小あると思いますがすべてのモノゴトを完璧にこなすというのは難しいのではないかと思います。
また、よほどの方でない限り、お金やモノ、そして商売するのであればお店の広さなども限界があります。

私たちの脳は1100万bps(bps=1秒間に何ビットの情報を送受信できるか)の情報を受け取っているといわれます。このうち、意識できるのはたった126ビット、99.999%近くが無意識に流れていきます(数値については諸説あります)。
これは、脳と神経は膨大な情報をすべて意識化したとしたら起こるであろう”混乱”から意識を守り、今必要と思われる情報だけに注意を集中させてくれるからです。
14 単品管理思考法②|情報の捉え方 でお伝えした選択的注意(注意をはらったことについてはしっかりと分かるが、注目していないことについては入ってこない)や認知的不協和(自分の考えと反する事実や情報があると「正」と「反」が矛盾して不快な気持ちになるので、どちらかを捨ててこの不快な状態を解消しようとする)についても同じことかもしれません。

これまでに例に挙げてきた、彼女へのプレゼントや上司から頼まれた資料の作成、さらにはお店に置く商品についても同様です。

お金が無限にあれば、たくさんのプレゼントや最高のシチュエーションを用意することができるかもしれません。
時間が無限にあれば、情報を山ほど取ってきて、たっぷりと時間をかけて整理し、とても整った資料を作成できるかもしれません。
売り場が無限に広ければ、様々な種類の商品を品揃えできるかもしれません。

ただ、どれも有限です。
だからこそ、より効果の高いモノ・コト、伝わりやすい箇所、そしてお客様が欲しいと思っているであろう商品に集中させ、その他を排除する、つまり「やらないことを決める」ことがとても重要となります。
では「やらないこと」はどうやって決めたらよいか、これは前回までに説明してきた【情報収集】と【仮説構築】の中から効果の薄い順に排除していきます。

彼女へのプレゼントの例では前回、『よりオシャレになるために洋服が必要、と想定していたとしても、洋服は実はたくさん持っていて、これに合うアクセサリーが無いから着ていない、というコトが分かったらアクセサリーに変えることが必要です。』と書きました。
これでも他の選択肢を死筋排除していますが、さらにブレスレットやイヤリングでは洋服と合わせるのは難しいからネックレスを中心に選んでいく、などによってより絞り込んでいくことができます。
また、上司から頼まれた資料については、使う状況によって必要な内容と必要でない内容を分けていきます。さらには社内でミーティング用であればきれいなレイアウトや余計な説明は省いていいということもあります。

能力が無限にあれば、資源が無限にあれば、スペースが無限にあれば対応できる。ただし、それが無いからこそ、有限だからこそ死筋排除が必要である、ことを理解いただけたでしょうか。
ではこの死筋排除をしないとどんな弊害があるのかを次で説明します。

必要がないモノ・コトは時として有害

コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授のチームが行った実験に、「ジャムの実験」というものがあります。
これは、ある高級食品店でジャム6種類、もしくは24種類から選択を迫られた場合の顧客の行動を観察したものです。

6種類の品揃えだった場面ではお客様の30%が購入しました。
一方、24種類の品揃えではなんと購入に至ったお客様はわずか3%という結果となりました。
選択肢の少ない方が、多い場合よりも10倍も売れたのです。

もちろん全く同じ環境下(同じ人ではない)ため、次の実験でも100%同じ結果になるとは限りませんが、「人間は選択を行うと脳が疲労し、その後の意思決定が実際に困難になる」ということを裏付けた実験となりました。
お店の場合、品揃えが多ければより選択肢が増え、売上が上がると考えられがちです。ただ、人は多くの選択肢がある場合は思考停止に陥る、つまり購入に繋がらない結果となってしまいます。より多くの選択肢が皮肉なことに購入してもらう機会を奪ってしまうのです。

さて、品揃えという点では死筋排除をしなければマイナスになってしまうことがお分かりいただけたかと思います。では能力や資源という点ではどうでしょうか。
当塾では店長さんとの1on1の面談を必ず行います。また、仕事柄多くの経営者の方からのお話をお伺いします。
その際に良く感じるのは、「仕事ができる方ほど死筋排除が苦手」な傾向があるということです。
器用貧乏という言葉がありますが、すべてできてしまうからこそ、色々なコトに手を出す、そして中途半端になってストレスを抱える…非常にもったいないと感じます。
前項でも述べたように、こなせる能力や時間、お金は有限です。
優先してやるべきことは何か、やらないことは何か、これを明確にすることで、次回説明する「実施・実行」の効果が高まります
ビジネスの世界ではよく「選択と集中」という言葉が使われます。最近某一部上場の大手小売業の会社へ、物言う株主から利益を上げていない事業会社を切り離せという要望が強くあるといわれていますが、これも「選択と集中」を意識したものでしょう。(決してそれが正しいとは分かりませんが…)
特に中小企業では資源(人材・資金など)に限りがある中で、やらないコトを決めて戦う領域を決めることが重要と言われます。

やりたいコト、やれるコトを全てやると、本来やるべきコトができなくなる、または質が落ちてしまいます。
これでは効率が悪くなり、結果として機会ロス(チャンスロス)が起きます。本来得られる利益や効果が得られなくなるという点では有害となってしまうのです。
ただ有限だから死筋排除を行うのではなく、効果を最大限にするために、そして損をしないためにこそ行うことが死筋排除の本質です。

死筋の定義は時と場面によって異なる

死筋排除のポイントの最後は「死筋排除は時と場面によって範囲が異なる」ことです。
これまでは死筋排除の有用性をお伝えしてきました。
しかしながら、これは時と場面によって考えていかなければいけません。

例えばリアルの店舗の場合、お客様にその場で買っていただくことで売上になり、お店の利益となります。
一方でネットでの購入の場合はどうでしょうか。

ネットであればいつでも、どこでも購入することができます。また、売る側としては店舗に置いておく必要はない(倉庫やある店舗から配送すればよい)ので死筋排除をし過ぎず、ある程度選択できる品揃えが購入に繋がるポイントになります。

これをロングテールといい、あまり売れないニッチな商品群で稼ぐ考え方です。この場合、選択しやすいUI(ユーザーインターフェイス)であればより購入に繋がっていきます。

また、先に挙げた某一部上場の大手小売業の会社への事業会社売却圧力については、ただ利益だけを見るのではなく、本当に能力としてカバーできないのか、相乗効果を上手く使うことはできないのかなど、どこで死筋排除をするのかも慎重に検討する必要があるでしょう。

能力や資源について、有害にならずにより最大限の効果を発揮できるポイントはどこなのかをきちんと考える必要がある。これが時と場面によって異なる死筋排除の考え方です。

ここまで、死筋排除の3つのポイントを通して重要性をみていきました。
PDCAサイクルも単品管理思考法に似たものですが、大きな違いは今回説明した「死筋排除」をより明確に、意識して行うという点です。
ぜひこのポイントを意識して、効率よく成果を出していくきっかけにしていただれば幸いです。

今回はここまでです。次回は実施実行についてとなります。
更新を楽しみにお待ちください!


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